今までのキリマンジャロ登山ツアーで実際にあった高山病のケースで、
症状の重かったものをまとめました。
こういう情報は旅行社さんは公開しないので調べてもなかなか出てこないですよね。
参考にしていただければと思います。
ただし、私は医者ではありませんので、以下のレポートの内容を鵜呑みにはしないでください。
統計ですが、キリマンジャロにおいて100人のツアー参加者がいればそのうちの1人はかなり重度の高山病になり、1000人参加者がいれば1名は亡くなると言われております。
キリマンジャロの日本人登山者は毎年1000人前後です。亡くなられる方が毎年1人くらいはいる、という統計ですね。実際、ほぼその通りになっているのが現実です。
高山病のなりやすさは、体質(生まれつき)によるところが大きいので、体力自慢や登山経験が豊富であっても関係ありません。
体調がおかしいなと思ったら、それを隠さずに、チーフガイドやリーダーに相談しましょう。
ケース(1)
- 時期 : 第2回 キリマンジャロ登山ツアー 2011年2月
- ルート : マチャメルート
- 対象 : 38歳男性
- 体力 : 週2~3回10キロランニング
- 登山経験 : 富士山
- 症状 : 下痢、傾眠
- 発症高度 : 4640m(バラフキャンプ)~5730m(ステラポイント)
バラフキャンプから頂上アタック開始の1時間後くらいから下痢になり、その後およそ1時間おきにお腹を下していました。歩くペースも大分落ち、本隊にはついていけなくなりました。
同じ物を食べていた他10名には下痢の症状が見られないため、食あたりではなく高所障害が原因の下痢の症状であると思われます。
下痢になると体の水分が抜けてしまい、高山病の症状が悪化する可能性があります。
何とかステラポイントにはたどり着いたものの、その頃には傾眠の症状が出ていたので、ウフルピークは諦めてもらい下山していただきました。
傾眠の症状ですが、少し立ち止まった瞬間に立ったまま寝る、座り込んだ瞬間に寝る、写真を撮ると言いカメラを構えた瞬間寝る、などの症状で、背中を叩いて刺激を与えればすぐに起きるものの、寝るというよりは意識が飛ぶ、に近いものがあります。
本人の自覚症状としては、ただ眠いだけ、なので下山宣告されてもなかなかピンと来なかったようですが、高地脳浮腫の危険性があるため続行不可で下山の判断としました。
結局自力では下山できず、両側からガイド二人に肩を担がせて、3790m のハイキャンプまで下ろし、そこからストレッチャーに乗せて一気に下山口まで搬送し、そのまま病院に直行しました。
検査の結果、肺水腫、脳浮腫はありませんでした。
次の日には元気にサファリツアーへ出発しました。
ケース(2)
- 時期 : 第4回 キリマンジャロ登山ツアー 2012年9月
- ルート : ロンガイルート
- 対象 : 33歳男性
- 体力 : 厳冬期富士山日帰り、西穂~奥穂縦走
- 登山経験 : 富士山20回以上(厳冬期含む)、穂高縦走、八ヶ岳 等
- 症状 : 肺水腫の疑い
- 発症高度 : 4500m付近(キボハット手前)
ロンガイルート登山4日目、マウェンジターンキャンプ(4310m)からキボハット(4700m)へ向かっている途中で失速。
体力に自信があったため通常はポーターに預ける荷物(20kgちょっと)も自分で背負っていました。それが裏目にでたのか、4500m付近から本隊のペースについて来られなくなりました。
数歩ごとに激しい息切れで立ち止まりました。
頭痛や吐き気は無かったようです。
本隊の30分遅れくらいでキボハットに到着。
その夜の頂上アタック出発までに体力回復を願いましたが、仮眠後の出発直前でもテントからトイレに行くのもかなり億劫な状況だったようです。
頂上アタックには参加したものの、5000m付近で登頂を断念し引き返しました。
この時の血中酸素濃度は50%を切っていました。
下山は自力で歩いて下りましたが、行動能力は回復しておらず、少しでも登りになると数歩ごとに息切れで立ち止まりました。下り坂は問題なく本隊のペースについて下りていました。
症状としては、乾いた咳、大幅な運動能力の低下、があったので肺水腫かその1歩手前かと思われます。
下山後、症状は回復しました。
ケース(3)
- 時期 : 第5回 キリマンジャロ登山ツアー 2013年2月
- ルート : マチャメルート
- 対象 : 33歳男性
- 体力 : 厳冬期富士山日帰り、西穂~奥穂縦走
- 登山経験 : 富士山20回以上(厳冬期含む)、穂高縦走、八ヶ岳 等
- 症状 : 肺水腫の疑い
- 発症高度 : 4640m(バラフキャンプ)
ケース(2)と同一人物で、これがリベンジでした。
前回の反省点を活かし、自分で背負う荷物の軽量化、あまり無駄に動き回らず体力の温存、体を冷やさないようにする、水分をできる限りとる、などの対策を講じましたが再び肺水腫のような症状が見られ、頂上アタック出発の1時間後くらいには引き返す事となりました。
ラーヴァタワー(4640m)の時点では元気だったので、この調子であれば今回は登頂できるかなと期待しましたが、バラフキャンプ手前で失速し、登頂アタック出発直前の血中酸素濃度は35%(エラーなので正確な数値ではない)まで落ち込みました。
高山病になるならないは体力や登山経験ではなく”体質”によるところが大きい、ということを再認識させられるケースです。
下山後は回復しました。
ケース(4)
- 時期 : 第5回 キリマンジャロ登山ツアー 2013年2月
- ルート : マチャメルート
- 対象 : 29歳男性
- 体力 : 自転車(ロードレース)で月に1500km走行
- 登山経験 : 富士山、六甲山
- 症状 : 消化器不良、嘔吐
- 発症高度 : 3000m(マチャメキャンプ)~4640m(バラフキャンプ)
自転車のロードレースをやっている方で、最初から最後まで血中酸素濃度は90%以上をキープしていました。すばらしい心肺能力です。
ただし、鼻が悪いせいか、
睡眠時が無呼吸に近い状態になるのか、かなり呼吸が浅くなるようで(苦しそうなイビキ)、
初日のマチャメキャンプ(3000m)から、夜中の0時過ぎに吐き気で目が覚め、
外に出て嘔吐していました。
朝、血中酸素濃度を測定しても90%以上の数値が出て、本人も元気に回復していました。
2日目のニューシーラキャンプ(3845m)でも、夕方くらいにちょっと昼寝をしただけで気分が悪くなり嘔吐し、やはり夜中にも目が覚め吐き気に悩まされたようです。
このまま毎日睡眠が取れないと体力を消耗してしまうので、3日目のバランコキャンプ(3960m)でとってみた対策は、気道をしっかり確保できるように横向きで寝る、脳に行く酸素の量が減ると吐き気が来るのでニット帽の内側にホッカイロを貼り付け頭部を温める(頭部の血行をよくする)、あとは通常の高山病対策を講じました。
これがうまくいき、この日は朝まで安眠できたようです。
頂上アタック前の仮眠では、やはり嘔吐しましたが、起きてしまえば血中酸素濃度は90%以上、
体力的にも問題なくウフルピークに登頂しました。
このことから、
鼻の悪い人は睡眠前に点鼻薬を使用して鼻を通してから寝たり、横向きで寝たり、高山病薬を飲んでみたりと、しっかり対策をしたいところです。
ケース(5)
- 時期 : 2004年12月
- ルート : マチャメルート
- 対象 : 25歳男性
- 体力 : 貧弱
- 登山経験 : ほぼ無し
- 症状 : 体の硬直、しびれ
- 発症高度 : 4640m(バラフキャンプ)
これは私が初めてキリマンジャロに登った時の私の友人のケースです。
バラフキャンプに到着してから30分くらい経った頃、
私の友人が真っ青な顔で体調がおかしいと言いはじめました。
四肢の痺れ、硬直を感じるようで、呼吸も荒くなり、
急遽、夕食を調理中のテント内(キリマンジャロ登山中最も温かい場所)に連れて行き、
そこで寝かせ、靴下を重ねて履かせ、ダウンジャケットやシュラフをかけ体を温めて、
グルコースを溶かしたお湯をたくさん飲ませ、友人みんなで四肢をマッサージしました。
しばらくすると落ち着いてきました。
登頂アタックは断念し、朝までゆっくり寝て、
次の日には回復し自力で元気に下山しました。
これはマメ知識ですが、キリマンジャロ登山中で最も温かい場所は、料理をしているキッチンテントの中です。常にお湯を沸かしたり、火を使っているので室内はいつも温まっています。
ケース(6)
- 時期 : 第8回キリマンジャロ登山ツアー 2014年2月
- ルート : レモショルート
- 対象 : 31歳女性
- 体力 : 普通
- 登山経験 : 富士山(20回くらい)、北~奥穂、木曽駒、御岳、北岳、空木岳等
- 症状 : 嘔吐、アセトン血性嘔吐症の疑い
- 発症高度 : 3500m(シーラプラトー)、4500m(ラーバタワー手前)
行程の長い2日目、3日目、6日目の中~後半で嘔吐の症状、顔色が悪い。
頭痛無し、むくみ無し、睡眠後は吐き気もなくなりすっきりするが、2日目、3日目の後半は動けないほどの吐き気と疲れ。
対象者は小柄で痩せ型。
高所障害による嘔吐だと思っていたが、そうではなくアセトン血性嘔吐症(周期性嘔吐症)の疑いあり。
高山病と間違われやすい症状のひとつで、脂肪が燃えやすい代謝の良い痩せ型の人がなりやすく、小さな子供がたくさん遊んだあとに吐いてしまう症状と同じようなもの。大人がなるのは稀なケース。
体内の糖分が不足すると体は脂肪を燃やしてエネルギーを作り出そうとしますが、その時に出る代謝物のケトン体(アセトン)が大量に血液中に溜まることで気分が悪くなり、嘔吐し、糖分を摂取できずに更に脂肪が燃やされケトン体が溜まるという悪循環が引き起こす症状です。
ブドウ糖をこまめに摂取することで回避できます。
このような症状が出たことがある人は、登山中に行動食、特に糖質を小まめに取るようにしましょう。
バラフキャンプ~ウフルピークはゼリー飲料を行動食とし、嘔吐の症状は出ずに登頂。
下山時は水しか取らなかったためか、バラフキャンプ手前で再び嘔吐の症状が出たものの、ムウェカキャンプに着くころには体調は回復へ向かいました。
ケース(7)
- 時期 : 第10回 キリマンジャロ登山ツアー 2014年9月
- ルート : ロンガイルート
- 対象 : 33歳男性
- 体力 : プロボクサー
- 登山経験 : キナバル、日本の山、冬山経験あり
- 症状 : 肺水腫
- 発症高度 : 5895m ~3800m
サミットプッシュでギルマンズポイント辺りから急激に運動能力が落ちたものの、現地ガイド達の手を借りてウフルピークまでたどり着きました。
下山では足に力が入らないようで、ガイドに肩を預けての下山となりました。
この時点では他の症状は見られませんでした。
キボハットからホロンボハットまでは行程が緩やかな下りである事もあり、自力で歩ききることができました。
その夜辺りから呼吸の調子が悪そうで、咳が出るようになり、ゴロゴロという異音が混じるようになりました。
サチュレーションもエラーになったりでちゃんと測定できているのか定かではありませんが、40前後(エラーが出ていたので正確な数値ではない)まで落ち込みました。
運動能力の大幅な低下、咳と異音、サチュレーションの大幅な低下から、肺水腫と判断し、
翌朝、ホロンボハットからレスキュー車両にて下山しました。
下山直後のモシでのサチュレーションは75。
その後、回復に向かいました。
ケース(8)
- 時期 : 第12回 キリマンジャロ登山ツアー 2015年9月
- ルート : ロンガイルート
- 対象 : 61歳男性
- 体力 : 普段から登山をしている。100名山完登。
- 登山経験 : 100名山完登
- 症状 : 肺水腫
- 発症高度 : キボハット4700m~ホロンボハット3700m
キボハットまで問題なくたどり着いたものの、その夜体調が悪くなりサミットプッシュを断念。すでに22時半を過ぎた頃だったので、朝まで休んでいただき、本隊がウフルピークに行って帰ってくる前に先行してひとつ下のホロンボハット3700mまでチーフガイドと共に下山していただきました。
本隊が頂上からホロンボハットまで下山し、再度容体を確認したところ肺水腫の症状が出ていたためすぐにレスキューを要請し、そのまま病院に直行した。
症状は寝たり座ったりしていれば治まっているものの、少しでも歩くと呼吸に異音が混じり、ひとりでの歩行は困難な状態。SPO2はホロンボで75だったが、安定せず正確な数値ではないでしょう。
レスキュー車両は要請してから1時間半ほどでホロンボハットに到着。私と現地チーフガイドが同行し、麓のKCMCへ。検査の結果、肺水腫と診断され、そのまま入院となった。
初期費用は185ドル(初診費用115ドル、X線検査・注射・薬・酸素吸入費用70ドル)。
入院費用は100ドル/日 程度。
完治まで5日間入院し、最終的には765ドルとなった。
帰国後のX線、CT検査では異常なしでした。
費用は帰国後にすべて保険でカバーしました。