登頂率——これからキリマンジャロ登山を目指す人にとって、気になる指標ではないでしょうか?
例えば、A社のツアーは登頂率95%、B社は70%。この数字を見れば、多くの人は当然A社を選びたくなるはずです。ツアー会社も登頂率に自信があれば、それを前面に押し出して参加者を募ります。
しかし、実際のところはどうなのでしょうか?
私は以前、キリマンジャロ国立公園のヘッドオフィスで10年間の日本人登山者の登頂率をリサーチしました。コロナ禍以前のデータになりますが、その平均登頂率は 約80% でした。
この数字を高いと感じますか?それとも低いと感じますか?
10人が挑めば8人は登頂できる——こう聞くと、思ったより高いと感じる人が多いかもしれません。
しかし例外もあります。
以前、ある山岳会が「誰でも登頂できる」と謳って20名以上の登山者を募り、結果的に登頂できたのはわずか2名。登頂率は 10% 以下でした。
いったい何が問題だったのでしょうか?
実は、このチームは日本からのツアーではなく、タンザニアの現地ツアー会社に直接手配を依頼していました。そのため、日本のツアー会社で一般的な健康チェックや高山病リスクのフィルタリングが一切なかったのです。さらに、参加者の平均年齢は 70歳以上 でした。
もちろん、高齢だから登れないというわけではありません。
しかし、ツアーの登頂率は 参加者の年齢層 によって大きく左右されるのも事実です。
一般的に、60歳くらいまでで体力に問題がなく、高山病に対する耐性がある人なら、登頂できる可能性はかなり高いでしょう。
つまり、「登頂率が高いツアーを選ばないと成功しない」というわけではないのです。
数字の裏にある真実:レスキューでも登頂証明書は発行される
キリマンジャロ特有の事情として、 登頂後に体調を崩し、自力での下山ができなくなっても登頂証明書が発行される という点があります。
たとえば、10人参加したツアーで、全員が登頂に成功。しかし、そのうち4人が体調を崩し、レスキュー車両で病院へ搬送された。
それでも 登頂率は100% なのです。これは本当に「安全なツアー」と言えるでしょうか?
登頂率は確かにツアーを選ぶ一つの指標です。
しかし、その数字だけでツアーの質や安全性を判断せず、 ツアー会社の方針やサポート体制をしっかりリサーチして選ぶことが大切 なのです。
登頂率 80% 、
言い換えれば、 5人に1人は登頂できない 。キリマンジャロは、そういう山です。
私がガイドを始めようとした際、東京医科大学病院の登山高山病外来の教授に言われた言葉が今でも心に残っています。
「100人をキリマンジャロに連れて行けば、そのうち1人は危険な状態になる。
1000人を連れて行けば、1人が亡くなる。その覚悟だけは持って始めたほうがいい。
キリマンジャロはそういう山だ。」
キリマンジャロ登山の本質を理解し、楽しく安全に登頂を目指しましょう。
登頂させることがガイドの最も重要な使命ではありますが、下山の判断を下されたら素直に従ってくださいね。高山病は場合によっては命にかかわりますので。